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【アドバイスはどれくらい有効か?】気付きを促す関わり方

この記事は
「毎回毎回アドバイスするけど変化がない…」
「指示するも選手に受け取り難い様子が…」
「そもそも自ら気付いてくれたらいいな…」

というスポーツ現場の課題を少しでも解決するヒントを紹介しています。

「なんでも相手を観て感じたことがあれば常にアドバイスしてあげよう。」実はこれ、あまり有効ではないことが分かってきました。

✅ 内容
1.目隠しでボールを投げる実験
2.アドバイスによる動作習得
3.自ら気付くということ
4.気付くことの難しさ
5.気付きを促す方法

ではそれぞれ紹介していきます。

「運動学習」というスポーツ心理学の分野において、被験者を対象に5m先から的へ目隠しでボールを投げて合計点を競う実験がありました。


被験者たちは3つのグループに分かれます。
Aグループ:アドバイス100%群
Bグループ:アドバイス66%群
Cグループ:アドバイス33%群

(※ここでのアドバイスは、ボールは目隠しで投げるため「今のは○点にあたったよ」というアドバイスです。)

では最も高い成績を出すことができたのはどこでしょう?

答えは、

この結果からアドバイスを受けるとその日のパフォーマンスは高いことが分かりました。しかし、実は実験はここで終わらず続きます。

3日後、
今度は全てのグループがアドバイスなしで同じく競い合いました。3日前の動作の記憶が試される実験です。さて、最も高い成績を出せたグループはどこでしょう?

実は、

アドバイスが最も少なかったグループが3日後のパフォーマンスが高かったわけです。これは、アドバイスが少ない方が
「今のは上手くいったのか?」
「今のは上手くいかなかっただろう…」

という自ら気付いた経験が多くなり、動作の記憶定着が高かったからだと考察できます。

※引用:Reduced feedback frequency enhances generalized motor program learning but not parameterization learning. 1993https://psycnet.apa.org/record/1994-00397-001

「運動学習」とは、簡単に「動作習得の過程」と言えますが、運動で大事なのは、上手くいった動作が記憶として定着し、いかに長期に渡って再現できるかだと考えています。

以上の実験結果から考察できることは

✅アドバイスは一時的なパフォーマンス発揮には有効である
✅しかし、アドバイス重視だと被験者は声に頼ってしまい、自発的な動作の熟考から生まれる「気付き」が減り、動作が記憶として定着されにくかった。
✅ 自発的な力の発揮には、「アドバイス量」と「自ら気付く機会」の適切な割合がある。

一般的に人の育成は「アドバイスは3割程度がいい!」と言われる所以もここからきています。教えすぎはよくないんですね。

アドバイスが多いと人はやらされ感が出て嫌になってきますよね。「自分でやりたい!」という動機が人を成長させますがこの実験からもその心理的な反応が伺えます。

ではアドバイスしない方がうまくいくか?というとスポーツ現場はそんな単純な話しでもありません。

選手に動作の熟考に努めようとする力「自ら気付く力」が足りていないと動作習得はうまく進まないからです。

この「気付く」ということが奥深いです。一般的にはこう書かれています。

「気付く」①思いがそこにいたる。➁意識を取り戻す。

広辞苑 第七版 岩波書店

「気付く」①それまで気にとめていなかったところに注意が向いて、物事の存在や状態を知ること。➁それまで見落としていたことや問題点に気づくこと。

デジタル大辞泉

さらに日本スポーツコーチング協会では「気づき」についてこう定義しています

「気付く」見失っているもの(盲点)を再発見すること

一般社団法人日本スポーツコーチング協会

つまり、そもそもその人の内側にないものには気付くことができないということです。

先ほどの実験では、「投げる」という体験を過去にもしているはずなので、強さや角度、フォームといった加減を調整することでき、上手くいってない場合はどこに欠点があるのか気付くことができます。

しかし、初めての経験の場合はどうでしょう。

例えばサッカーが大好きになって公園でボールを毎日蹴りはじめた小学生がいたとします。現在その子はチームに所属しておらず試合経験がありません。少し経ってチームに所属するようになり、入団直後に待ちに待った試合ができることになりました。いざ、本番!となった際、

・ボールに近づきすぎてしまいいつも相手が目の前に…
・ゴールへ走るもオフサイドが頻発…

ボールは蹴っていたものの集団でプレーするという初めての経験から、身体を動かし味方に合わせることに必死で何をどうしたらうまくいくのか「気付く」余地がないことが目に浮かびます。

また、試合をある程度の積み重ね、今度は格上の相手と対戦することに。相手は一人一人の能力が高いうえ、徹底的にマンツーマンで守られる状況。「フリーで受ける」ことができたらいいけどフリーになる知識や経験がないので慌てふためき、「考えろー!」とベンチからコーチングを受けるもがむしゃらにプレーするしかない様子です。

このような現象はどの競技レベルでも発生しうることです。この際は適切なアドバイスによって解決させたり、後に気付きを得るための材料を届けたりして状況に応じた関わりが求めらていきます。

ではある程度の競技経験を積んできて伸び盛りの選手たちをより成長させたい、「気付き」を促す段階だと感じたときの効果的な指導方法には何があるでしょう。

「気付く」まで待つ

こうした姿勢も育成には大切に考えます。「気付く」まで熟考する過程で考える力もつくからです。ですが育成にも中学生年代なら3年間というように期間があります。そこで、待たずとも有効な手段の代表例が、スポーツコーチングのコミュニケーションスキル「フィードバック」「質問」です。

「フィードバック」

フィードバックとは、もともとは電気工学用語ですが「結果である事実を正しく送ること」を言うコミュニケーションスキルです。人が鏡で自分の服装をみて襟を正すように、自分に対するありのままの事実を伝えられると必要とされる行動修正について自ら気付きを得ていきます。

「質問」

質問には視点を変える力があります。私たちの心は目の前の出来事に囚われてしまいがちです。質問によって見失っていた大切なことが何だったか、盲点になっていた部分に気付くことができます。

このスキルはスポーツコーチング基礎講座にてお伝えしていますので詳細を知りたい方はお問い合わせください。

この記事ではアドバイスの有効性と選手が自ら気付くようになる方法について解説しました。

 まとめ
・「アドバイス」は一時的なパフォーマンス発揮を助ける。
・「自ら気付く」が動作習得に繋がりやすい。
・「アドバイス」は3割程度が主流。
・教えすぎは良くない。
・「気付く」とは見失っているもの(盲点)を再発見すること
・気づきを促すスキル「フィードバック」「質問」

今回はスポーツ心理学の側面である「運動学習」から選手との関わり方、有効なコミュニケーションスキルをお伝えしました。このような内容をスポーツコーチング基礎講座にて提供中です。「スポーツコーチング概要」の説明は随時申込みいただけます。

良かれと思っていたアドバイスも実は有効でない場合があることを知り、違った指導の引き出しが増えると深みある育成に繋がります。選手が求める瞬間にアドバイスができ、ふさわしい瞬間に気付きを促せる指導が増えるといいですね。

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